
【DaVinci Resolve】M1 MacBook Air エンコード速度検証
生屋 頭取 @shindoy です。この記事は Blackmagic Advent Calendar 2020 23日目の記事になります。
Apple Siliconと呼ばれる、Apple M1チップを搭載したMacが(ある意味)”静か”にローンチされました。実はこの”静か”なローンチは、専門的に見ればかなり破壊的イノベーションといえます。実際にM1 MacBook Air での動画エンコード速度を検証しました。
Macの”CPU”変遷と原点回帰
Apple M1チップ Macの登場前、Intel製CPUを搭載したMacにおいてはメールやウェブブラウジングなど、軽い処理を日常で使う上では全く気にならないものの、重たい作業ではファンの音が鳴り響く(特に夏場は際立つ)状態でした。例えばビデオ会議のZoomのバーチャル背景や、4Kの映像編集、ソースコードのビルドなど重い処理時には、CPU負荷に伴う排熱処理のためのファンが高速で回転し「頑張っている」感がありました。今回の劇的変化を、まずは搭載CPUの変遷から見ていきます。
1984年〜 68000系(モトローラ製・CISC)
1994年〜 PowerPC(IBM製・RISC)
2006年〜 Intel Core/Xeon(インテル製・CISC)
2020年〜 M1(ARM設計・RISC)
このように、Macは過去の歴史で定期的にCPUの変更を行ってきました。順を追うと、変更の間隔は10年、12年、14年と徐々に長くなっています。そして、CPUの基本的な設計概念(CISC/RISC)も毎回変わってきました。今回の変更では ARM「製」ではなく「設計」となっていることに改めて気づき、時代の変化を感じます(ARMは設計専業、Intelは設計から製造まで一貫の垂直統合)。そして更に、M1はCPU(の部分を持つ、という意味で)でもありながら厳密には「統合型チップ」と表現することが正しく、今までの概念(様々な役割の周辺チップと「CPU=『中央』演算装置」とが入出力し処理)を置き換えています。この統合チップの恩恵として、高性能でありながら高効率、省電力を実現しています。Appleがこのような「クローズド型」を追求し破壊的な製品で世の中の意識を変革するというのは”お家芸”だったわけで、思想的には初代Macintosh登場時の「36年前に戻った」とも言えるのではないでしょうか。Apple 創業者であるスティーブ・ウォズニアックとスティーブ・ジョブズが、拡張性(外部ポートの数)で常に意見が異なっていた話は有名です。今回計測した M1チップ搭載 MackBook AirのUSB Type C 端子はたった2つ(M1チップは統合の代償としてI/Oインターフェースが2つと推測)。外部ディスプレイは1台のみ対応、冷却ファンは無く、シンプルが最も美しく拡張性は不要、というスティーブ・ジョブズを回想する製品となっています。その証左に「今回(のモデル)はスキップ」というブログが国内外で多く見られます。批判と評価は、表裏一体です。
MBP vs MBA 速度比較
今回の速度比較で用いたのは、以下の2機種です。
MacBook Pro 13-inch 2020
2.3 Quad-Core Intel Core i7
RAM 32GBMacBook Air M1 2020
Apple M1
RAM 16GB
(左)MacBook Pro(右)MacBook Air
素材として、以下の動画ファイルを用いて同じポイントでカット後、MP4書き出しを行いました。
解像度: 1920×1080
Codec: Apple ProRes 422 Proxy(映像)Liner PCM(音声)
収録時間:オリジナル 02:07:29→カット後 07:22
速度比較検証の詳細は、以下の通りです。
<概要>
DaVinci Resolveでカット編集後、MP4書き出し処理時間を比較
<手順>
1. DaVinci Resolveのメディアプールに素材動画を読み込む
2. タイムラインフレームレートの変更のダイアログが出てきた場合は許可する
3. ファイル > プロジェクト設定 > タイムラインフレームレート と 再生フレームレートが素材のFPSと同じになっているか確認する
4. タイムラインに素材動画を配置(または素材動画を選んで「選択したクリップで新規タイムライン作成」)
5. カット編集を行う
6. デリバーメニューに移動し、書き出し設定を行う
– H.264 Master
– レンダー:単一のクリップ
– ビデオの書き出しにチェック(それ以外の設定はデフォルトのままにする。解像度とフレームレートを今一度確認する)
– レンダーキューに追加し、レンダーを実行する
M1 チップ MacBook Air のメモリ搭載上限は16GBですが、結果は驚くべきものとなりました。
<DaVinci Resolve 16.2.7>
MacBook Pro 2分8秒(冷却ファン回転)
MacBook Air 1分16秒(冷却ファン無し)
(左)MacBook Pro(右)MacBook Air
MacBook Air が1.7倍早い(※DaVinchi Resolve 17.1.0 Universal版も同結果)、という結果となりました。エンコードにかかった時間は実時間の約1/6(MBPは約1/3.5)とMBPよりさらに短縮しています。そしてファン音が「しない」のではなくそもそも「物理的に無い」ことも大きなポイントです。チップ統合の結果として、ここまでの最適化を実現、更に軽量化まで同時に達成していることに驚きを覚えます。
各種アプリ起動確認
ライブ配信に関係するアプリとして以下の確認を一通り行いました。長時間ライブ配信への実践投入ではなく、あくまで起動と標準的な操作のみの「起動確認」レベルですが問題はありませんでした。Intel CPU用に作られた既存のアプリは「Rosetta 2」という変換機能経由で利用でき、これが問題なく橋渡ししていることがわかります。
Zoom(ARM64)
OBS Studio(x86_64)
ATEM Software Control(x86_64)
Tweet Deck (Chrome経由)(x86_64)
ATEM Software Control(x86_64)
これに加えてM1ネイティブ版Zoomで ATEM Mini ProをUSB接続したWebCAMの入力時も正しく認識され問題ありませんでした。Blackmagic Design Open DML Motion JPEG という表記があり、Intel Mac版と同様に認識できていることが分かります。
(ZoomでATEM Mini Pro をWebCam入力)
まとめ
MacBook Proのファン騒音問題を忘れさせてくれる”静か”なマシン。M1チップの数字「1」が表す通りまだ発展の余地はあるものの、イノベーションの起点として数々の変革実現という歴史的な意味を持つといえます。このマシンがCMや広告などの商業的手法で喧伝されず(かつ過去と同じ筐体で)登場したのは、”静かな”マシンであることを体現し、謙虚さという「美」を表しているのではないでしょうか。スティーブ・ジョブズが尊敬してやまなかった、ソニーの新規格や「発明」的な製品の型番もよく「-1」が振られていました。36年の時を越え、また新たな歴史の1ページが始まったような、静かなマシンの静かなローンチに、心は大いに騒がしくなります。
