【Blackmagic Design】=「ソフトウェア企業」説

Blackmagic Design社 は「ハードウェア企業」のように見えますが実際は「ソフトウェアと顧客サクセスを中心に置いている企業」という見方ができる点について考察します。

2020/12/16
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生屋 頭取 @shindoy です。この記事は Blackmagic Advent Calendar 2020 16日目の記事になります。

人気スイッチャー ATEM Mini シリーズによって Blackmagic Design社 は一気に有名企業となりました。多数のライブ・プロダクション向け製品の開発・製造・販売(※一部製品は代理店経由)までを一気通貫に行っているため、一見すると「ハードウェア企業」のようですが、「ソフトウェアによる顧客体験の創出と顧客のサクセスを企業活動の中心に置いている企業」という見方ができる点について考察します。

DaVinci Resolve の無料配布

DaVinci Resolve は、Adobe Premier や Final Cut Pro 等と並ぶ映像編集(ポスト・プロダクション)ソフトウェアです。2009年にBlackmagic Design社が da Vinci Systems社 を買収し2010年に有償版の販売を開始、翌2011年からは機能限定版である DaVinci Resolve 8 Lite の無償配布を開始しました。

DaVinci Resolve (Wikipedia日本語版)

DaVinci Resolve (ダビンチ・リゾルブ) はブラックマジックデザインが開発・頒布している統合型のポストプロダクションソフトウェアである。オフライン/オンライン動画編集、音声編集、2D/3Dデジタル合成[4]、カラーコレクション/グレーディング、メディア管理、映画用オーサリング、動画共有サイトへの投稿などが可能となっている。無料版と有料のStudio版が存在するが、無料版だけで約200万人近いユーザーがおり、この数字はほぼFinal Cut Pro Xの購入者の数と等しい。

DaVinci Resolveは元々カラーコレクションシステムの老舗として知られていた。2009年9月にDaVinci Resolveの開発元であったda Vinci Systems社をブラックマジックデザインが買収し、動画編集機能、デジタル合成機能などを組み込んで統合型のポストプロダクションソフトウェアへと転換させた。

2020年12月1日現在、無償版の全機能に加え、複数ユーザーコラボレーションやFXプラグイン機能などを備えた DaVinci Resolve Studio 17 が33,980円(税抜価格)で販売されています。注目すべきは、これが「ライセンス買い切り」であることです。つまり年間サブスクリプションや10万円単位の購入価格+数年ごとのアップデート代金が必要ないのです。無償版であっても「95%以上の機能が開放」されています。

DaVinci Resolveはなぜ無償なのか? なぜ安いのか?

買収時点の2009年以来、アップデートで一度もお金をいただいたことはありません。無償版も期限なし、商用利用可能、4Kまで出力可能という破格の条件で、95%以上の機能が開放されています。

創業者の理念

前述のインタビューのなかで、ファウンダー/CEOのグラント・ペティが「なぜこれ(無償配布や会社自体)をやるのか?」という根源的な問いに対して、昨今の企業倫理、儲け(数字)至上主義への批判とともに回答しています。

私にとって大事な考え方があります。それは誰かがお金を持っていないからといって、それはその人がバカだということにはならないということです。ただまだ成功していないだけなのです。我々の仕事は、こういう人たちが志を実現して、新しいレベルに行くための手助けをすることです。

近頃は多くの会社がビジネスしか考えずに経営されていて、数字だけを頼りに運用されています。ユーザーを数値化するのにコンピュータを使うのは、コンピュータの最悪な使い方だと思います。人は世界をより良い場所にするために知恵をしぼることができるし、我々の仕事はそれを実現させることだと信じています。昔はそういうビジネスのやり方が一般的で、もっとエキサイティングでした。常にエキサイティングであることを忘れないようにする必要があります。

顧客中心主義

グラントは、ハードウェアはあくまで「外」にあるもので、中核は無償のソフトウェアによってもたらされる顧客の「機会創出」と「サクセス」であるという企業哲学についても熱く語っています。

DaVinci Resolveはその考え方の最も純粋な表現です。無償版ではほぼすべての機能を提供しています。無償版自体では我々は収益を得ることはできませんが、その人が無償版で仕事を始めてお金を儲けることができたら、ゆくゆくはコントロールパネルやI/Oデバイスやカメラなどのブラックマジックデザイン製品を買ってくれるでしょう。そこではじめて我々は収益を得て、DaVinci Resolveをさらに良いものにすることができるようになるのです。これは普通のビジネスモデルより優れていると思います。なぜならこのやり方で我々がお金を儲けるためには、我々のお客さんが成功しないといけないからです。お客さんが成功してくれないと我々も成功しないのです。
このモデルが最終的にはうまくいくと私は考えています。このやり方だとお客さんとブラックマジックデザインが一緒に成長していかざるを得ないからです。どちらかだけが成功することはありません。お客さんがうまくいけばブラックマジックデザインもうまくいくし、ブラックマジックデザインがうまくいけばお客さんもうまくいきます。これこそ最高のwin-winな関係ではないでしょうか。

(無償のソフトウェア提供による顧客の機会創出)

(無償のソフトウェア提供による顧客の機会創出)

言い換えれば中核は「顧客」であり、「体験」の創出と「サクセス」の実現を追求している会社、という見方ができます。

(顧客体験とサクセスの追求)

(顧客体験とサクセスの追求)

このような社会の公器としての企業のあるべき姿勢は、日本においても近江商人の「買い手よし」「売り手よし」「世間よし」という「三方よし」の理念で語られてきたものです。Blackmagic Design社は、愚直に「我々の仕事は、世界をより良い場所にするために知恵をしぼり、実現させること」をトップ以下、一丸となって追求している企業です。

Blackmagic RAW

Blackmagic RAW形式は、軽量ファイルサイズでありながら露出/ISO/ホワイトバランスを後から調整できるという特長をもった、Blackmagic Design社が独自開発したRAWコーデックです。グラント自らが語るビデオでも述べられていますが、高画質になるほどファイルサイズの問題は悩ましく、扱うためには高額な設備投資が必要になります。また、従来のビデオコーデックではデータ量削減を目的としたクロマサブサンプリング(映像圧縮の一つ)によって情報が失われてしまうため高画質化が難しい問題がありました。

Blackmagic RAWでは、カメラ(センサー)の特性を反映できるようにして、オープン性を保ちつつも個別のハードウェアに最適化できるような設計がされているというプロダクションの工程を知り尽くしているからこその粋を極めた仕様となっています。

Blackmagic RAW(Blackmagic Design公式サイト)

柔軟性の高いメタデータを使用Blackmagic RAW SDKを使用することで、レンズ情報、アイリス、ISO、カラースペース、スレート情報など、カメラのあらゆるメタデータを完璧に扱えます。メタデータは直接.brawファイルにエンベッドされます。さらに、編集可能で、人間が読めるJSON形式メタデータを含む、サイドカーファイル(.sidecar)も使用できます。

時代に即したRAWコーデックをオープンかつクロスプラットフォームで提供し、コミュニティを通じて世界中に広めていく。まさにOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)の理念です。

Blackmagic RAWは、真の意味で、時代に即した高性能なプロ仕様のRAWコーデックであることに加え、オープン、クロスプラットフォーム、無償である点を踏まえると世界唯一の存在と言えます。コーデックは、無償SDKを使用することで、Mac OS、Windows、Linuxに対応します。何より、ライセンスや継続的な費用は一切必要ありません。Blackmagic RAWは、オープンで、エレガントな標準化された高品質の画像フォーマットを業界に提供するために開発されました。完全無償で、多様な製品に対応し、ユーザーの様々なワークフローで使用できるようにすることを意図して作られています。

今後の展開

ATEM Mini シリーズの爆発的ヒットにより、関連して様々な製品が常に品薄になる状況が続いています。最初はATEM Miniという「入口製品」から始め、サクセス体験を通じてクリエーターが育っていき、結果としてステップアップしたユーザーが上級レベルの製品を購入する。その「三方よし」で末広がりを願う精神性が、日本以外でも、そして現代にも生き続けています。今後、Blackmagic Design社が「サクセス」で得た利益は、ソフトウェア=顧客中心の思想のもと、DaVinci Resolveの機能性向上、Blackmagic RAWコーデックの積極的な推進、ユーザーコミュニティの育成と拡大、あっと驚くオールインワンのライブプロダクション向けデバイスなどに振り分けられていくと考えています。

まとめ

グラントの想いは、中央集権的にひとりが利益を独占するのではなく、もっと多くの人々がクリエイティブな存在になれるような機会を与え、「開放」していくことにあります。

クリエイティブな自由を与えることをモットーにしています。我々がどのような決定をするにせよ、その決定は人々に自由を与えて、彼らがクリエイティブになれる手助けをできるものでなくてはならないと考えています。

先にレビューした Video Assist 7″ 12G HDR の箱を空けたとき、そこには「Apple」らしさがありました。箱を開けるとソフトウェアのアップデート方法やDaVinci Resolveのカードと「Blackmagic Design ロゴシール」、保護袋で包まれた本体と付属品が、スマートなデザインと方法で収納されていました。そしてどれもが、取り出しやすいように細やかな配慮がなされていました。

まるでApple製品を開封したときのようなこの「!」体験は、将来のクリエーターに向けた「プレゼント」なのかもしれません。今回の考察をふまえると、そこには「自由解放戦線」で陣頭指揮を執るグラントからの強いメッセージが込められていることに気づきました。

ようこそ、新世界へ!

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